平滑筋腫と線維腫は、外見からはほとんど区別できず、指で圧迫すると、ぶよぶよとした浮腫状のものから、硬くこりこりしたものまで様々です。 摘出後、割をいれると、平滑筋腫の方がやや「肉っぽい」感じがしますが、確実ではありません。 平滑筋腫・線維腫はいずれも、腫瘍細胞周囲の膠原線維の量に、大きな開きがあっていずれも膠原線維の豊富な硬いものから、間質が浮腫状の粗なものまで認められます。
成書(「小動物の臨床腫瘍学」文永堂出版)では、犬の膣や外陰部の平滑筋腫も、性ホルモンのコントロールを受けているとの記載がありますので、発情期に大きくなることからいずれも平滑筋腫が疑われます。
2つの症例は、膣に発生した良性の腫瘍性病変で、臨床的には同じ、としてもいいと思います。 組織検査をしてみないと、これらの腫瘍の由来は特定できませんので、病理組織学的には同じかどうかは判断できません。
詳細なデータを蓄積していくことにより、臨床にフィードバックさせ、適格な処置法を確立していくためにも、由来をはっきりさせたいとは思っていますが…。
ヒトでは、平滑筋腫は平滑筋肉腫の発生母地である(肉腫は筋腫から発生する)と考えられている様です。 1個の腫瘤の場合は取ってしまえば終わりですが、多発している(有茎の腫瘤を見る膣壁に平滑筋腫が多発している症例も時々みられます)場合には、組織学的に平滑筋腫であるかどうかを判断しておくことは、動物においても予後の推測のためには重要だと思います。
最後に、御参考までに、膣の平滑筋腫と線維腫の組織写真を添付いたします。 2日前に、たまたま、ある病院から同時に依頼された2つの似たような膣の腫瘤の症例で、1例は平滑筋腫、もう1例は線維腫であった症例です。
平滑筋腫、雑種犬、17歳。
外陰部より突出した膣の腫瘤
線維腫、マルチーズ犬、9歳。
会陰部近くの有茎腫瘤