細胞診も(組織検査でも同様ですが)、病変がすでにあることが前提となっており、種々の病巣から主病変を見分けることが重要で、正常か病変かを見分ける、レントゲンや超音波の画像を読むこととの最大の違いだと思います。
特に細胞診は、肉眼所見との対比が重要ですので、採取される際の状況がよくわからず、肉眼所見も不明な場合が多くて、判断に苦しむことが多いのです。 たとえば、肥満細胞が数個得られているからといっても、異型性が弱い場合は腫瘤状の病巣を形成するなど、腫瘍性の増生があるのかどうかがわからなければ、すぐに「肥満細胞腫」との判断はできません。
さて、今回の細胞診につきましては、異型性はさほど強くはありませんが、腫瘍細胞らしい上皮性細胞が、腺上皮としての極性が失われた塊をなして比較的多数得られています。 正常の鼻腔粘膜上皮は単層の円柱上皮からなり、極性が保たれた単層の粘膜層を形成し、過形成を示す場合もまれにありますが、増生するのは腫瘍性の場合が多いという背景もありますので、断定は組織検査でなければできませんが、たぶん悪性と考えられます。 また、腫瘍性の場合には、炎症がある程度収まってからのほうが「イキのいい」細胞が得られることが多いので、結果に疑問があるようでしたら、しばらくしてから再度検体を採取されて、同じような細胞が出現しているかを確認されれば、一層精度は上がると思われます。 (二度目は先生ご自身でもみれると思います。)
目の前に動物がいて病変が見える臨床と違って、先生が書かれた依頼書の文面が全てである細胞診や組織検査です。 特に細胞診では、判断に苦しみ、できれば患畜を見に行きたいと思うこともしばしばです。 細胞診の際は特に、臨床経過や局所所見を詳しく記載していただければ幸いです。